ごあいさつ
この度、難治性副腎疾患に関する研究プロジェクトの推進および社会への情報発信を目的として「難治性副腎疾患研究プロジェクト」のポータルサイトを開設致しました。
長年、個別の副腎疾患の診療・研究に従事して参りましたが、疾患の種類が多くかつ各々の頻度が少ないことから、「難治性副腎疾患」として包括的、系統的、継続的に取り組むことが重要だと感じていました。特に、最初に取り組んだのは褐色細胞腫です。
その多くは手術により治癒することから、治癒可能な内分泌性高血圧の代表的疾患とされてきました。しかし、比較的若い患者さんで多発性転移を認める例、初回の手術にて治癒したとされていたのが後年になり転移が出現した例などを少なからず経験し、専門医として何らかの取り組みが必要な臨床的課題であると認識しました。平成18年に有志によるワーキンググループを立ち上げ、内分泌学会臨床重要課題として提案、活動を開始しました。
当初は手探り状態でしたが、幸いにも平成21年から3年間、厚生労働省難治性疾患克服研究事業奨励研究分野で「悪性褐色細胞腫」に関する課題(PHEO-J)が採択されました。研究班として全国疫学調査、公開シンポジウム開催、診療指針の作成、専門医向けの出版、患者啓発用冊子の作成、患者会の設立支援、更に全国調査を基盤とする疾患レジストリーの構築など、様々な取り組みを行いました。特に、疾患レジストリーは診療ガイドラインの標準化、新規の診断薬や治療薬の開発、バイオバンクの構築などへの発展的応用が可能な重要な取組であると考えています。
難病は①発病機構が不明、②治療法が未確立、③長期の療養が必要、④希少な疾患の4つの条件を満たすものと定義されており、副腎領域でも多くの疾患がその概念に該当するといえます。一方、「がん対策基本法」において体系的な施策の対象となっている悪性腫瘍は除くとされており、悪性・転移性褐色細胞腫や副腎皮質がんは原則として「難病」の範疇に入らないことになります。
即ち、褐色細胞腫、クッシング症候群は「難病」に、クッシング症候群を呈する副腎がん、悪性褐色細胞腫は「がん」に分類され、対策の基盤となる行政上の事業が異なることになります。
しかしながら、悪性褐色細胞腫も副腎がんのいずれも①診断後の治療法が未確立である点に加えて、②良悪性の早期鑑別診断が困難である点が、最大の臨床的課題であり、実際の診療および研究に従事する立場からは、これらの疾患に対して包括的かつ継続的な取り組みが必須と考えています。
「難治性副腎疾患研究プロジェクト」はこのような経験と背景を基盤に、臨床的に診断・治療が困難な副腎疾患群を「難治性副腎疾患」と位置付け、それらに対する様々な研究のプラットフォームの役割を担うことを目的として、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業研究班と国立国際医療研究センター国際医療研究開発事業(疾病研究分野)研究班との連携にて企画・立案されました。このプロジェクトを基盤とする様々な研究が発展し、成果を生み出すことで、対象疾患の診療水準の向上、新規の診断法や治療薬の開発、患者QOLの向上、引いては国民健康の増進に貢献できることを心より願う次第です。
関係各位のご理解とご協力をお願い致します。
国立病院機構 京都医療センター
臨床研究センター 特別研究員
成瀬 光栄
国立国際医療研究センター
糖尿病内分泌代謝科 医長
田辺 晶代